1997年に批准されたユネスコ「高等教育の教育職員の地位に関する勧告」は教育職員の果たす役割と貢献について、「高等教育の進展における教育職員の決定的な役割と、人類および現代社会の発展に対する彼らの貢献の重要性を認め、…」(前文)と述べ、その重要性を指摘しています。私たち非常勤講師もまた、そのような役割を担う教育職員の一翼であります。
私たちの組合は1995年の結成以来、京滋地区の四大学と交渉を重ねてきましたが、いずれの大学も、表現上の多少の違いはあるものの非常勤講師を「教学上不可欠なパートナー」と位置付けています。いずれの大学においても非常勤講師なしでは教学が成り立たない状況にあること、そしてこの非常勤講師のおよそ半数が本務校を持たない専業非常勤講師であることは、私立大学教職員組合連合による例年の実態調査や、国立大学協会報告書の資料によって明らかにされています。大阪および京滋私大教連による資料集『近畿地区私大・短大労働条件等資料集 2001年版』によると、近畿地域の私立大学では、1大学あたり専任教員と非常勤講師との比率は、おおよそ1:2であり、非常勤講師の中での専業非常勤講師の割合は約5割におよび、専任数に匹敵します。専業非常勤講師は平均2.7校をかけもちしていますから、おおよそ900人が近畿地域の私立大学に存在していると思われます。
しかし、この大学にとってなくてはならないはずの非常勤講師は、きわめて劣悪な待遇に喘いでいます。雇用は不安定で、生活の見通しがまったく持てません。賃金は極端な低賃金で、しかも社会保障がほとんど何もないために、乏しい収入から健康保険料や年金を支払わねばなりません。また大学教育においては、研究業績をあげることで教育の力量を高めることが必要不可欠ですが、非常勤講師の場合は研究活動はすべて自前です。
日本育英会の奨学金は教育に貢献する職業に就いた場合に返済免除を認めていますが、非常勤講師は劣悪な条件で大学教育に犠牲的貢献をしているにもかかわらず、免除職とは認められず、年間10数万円もの返済を余儀なくされています。
賃金は一コマあたり、月額25000円前後で、専任並に月5〜6コマ働いても年収150万〜180万円にしかなりません。専任教員の年収は900万〜1200万円ですから、格差は控えめに見ても6〜7倍になります。さらに退職金や社会保険を考慮すれば格差はさらに拡大します。これではユネスコ勧告で「公平でいかなる差別もない雇用の条件を確立しなければならない」(40条)とし、非常勤の場合は「常勤で雇用される教育職員に比例して同等な報酬を受け、かつ相当する基本的雇用条件を享受しなければならない」(72条a)と述べられているような同一労働同一賃金の原則に反するばかりか、一般のパートタイマーとフルタイマーの格差に比しても、専任教員の授業以外の職務を考慮してもなお、常軌を逸した格差と言わざるをえません。
非常勤講師は研究者としての業績を求められ、専任教員と同じレベルの授業を求められています。しかし研究活動に関しては何の補助ももらえず、教育についても、授業の準備や授業外での学生の指導などの活動の場が大学の中にほとんどありません。
大学教育に大きな比重を占める非常勤講師のこのような待遇を放置することは、大学教育の質を低下させ、学生を失望させ、大学院生の将来的展望を奪い、大学の社会的責任を放棄することになると考えます。
厚生労働省はかねてよりパートタイム労働処遇や労働条件に関し、通常の労働者との均等を考慮するための具体的検討に入ることを、勧めています。また国立大学協会は2000年5月に報告書「男女共同参画を推進するために」を作成し、「非常勤講師の処遇および研究環境の改善」に言及して、「非常勤講師の処遇の改善が必要であることは言うまでもない」として、具体的提言を行っています。日本の非常勤講師の現状はこのような動向に大きく遅れをとっていると言わざるをえません。
私たちは京滋私大教連の協力を得て、非常勤講師の実態調査を行い、この度報告書をまとめ、非常勤講師のおかれている劣悪な待遇を明らかにいたしました。それによれば,専業非常勤講師は平均週8.5コマの授業をこなし、月収はおよそ21万円、年収にして263万円です。日本のあらゆる職業を含む民間労働者の年間平均給与461万円(1999年)と比較しても、その6割にも満たないのです。そこから国保料国民年金を負担し、奨学金を返済し、休暇の保障もほとんどなく、雇い止めになれば退職金もほとんどもらえません。いつ雇い止めになっても不思議ではない不安定な身分でありながら雇用保険にも入れず、失業保険ももらえないのです。この劣悪な待遇の非常勤講師は、かつては専任教員になるまでの橋渡し期間であるかのように考えられていましたが、今や平均10.4年の勤続年数をもち、恒常的に存在する地位となっているのです。
この報告については多くの新聞等で紹介され、非常勤問題への社会的注目があらためて明らかになっています。私たちは2月に首都圏大学非常勤講師組合、阪神非常勤講師組合とともに、文部科学省、厚生労働省との懇談の機会を持ち、大学非常勤講師のおかれた実態と待遇改善の要求を聞いていただくことができました。4月2日には第145回国会参議院文教科学委員会にて、林紀子議員(日本共産党)が文部科学省に対して大学非常勤講師問題についての質問を行いました。文部科学省、厚生労働省との懇談は継続して行われる予定です。この問題をこれ以上放置することは社会的公正の観点からも人権の観点からも、もはや許されることではないと考えます。
どうか以下の要求項目を誠実にご検討下さい。いずれも私達にとっては切実な要求です。そしてできるところから改善の努力を示して下さいますようお願いいたします。
(雇用の安定化)
(労働条件の改善)
(教育研究条件の改善)
(資料として、現在当組合が知りうる限りの四大学の現状一覧表を付します。不明の箇所はご説明いただき、誤りがあればご指摘下さいますようお願いします。)